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前橋地方裁判所 昭和61年(行ク)3号 決定 1988年3月28日

申立人

群馬県地方労働委員会

右代表者会長

中山新三郎

右指定代理人

松澤清

岡田敬之助

堀江勝弥

湯浅啓一

猿渡真

申立人補助参加人

合化労連化学一般関東地方本部

右代表者執行委員長

林恭護

申立人補助参加人

合化労連化学一般関東地方本部ニッショー・ニプロ支部

右代表者執行委員長

西谷義信

右両名代理人弁護士

山田謙治

被申立人

ニプロ医工株式会社

右代表者代表取締役

佐野實

右代理人弁護士

鈴木航児

主文

被申立人は、当裁判所昭和六一年(行ウ)第三号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまで、申立人が昭和五九年(不)第一号事件について昭和六一年八月一八日付で発した別紙のとおりの命令のうち、主文第一項ないし第六項に従わなければならない。

理由

一  本件救済命令の適法性

一件記録によれば、<1>申立人が、補助参加人両名を申立人、原告を被申立人とする群労委昭和五九年(不)第一号事件について、昭和六一年八月一八日付けで別紙のとおりの内容の救済命令(以下「本件命令」という。)を発したこと、<2>右命令において申立人は、「被申立人が、申立人の補助参加人合化労連化学一般関東地方本部ニッショー・ニプロ支部(以下「参加人ニプロ支部」という。)所属の従業員(以下「支部組合員」という。)を、昭和五八年度の賃上げ、夏季一時金、年末一時金の各査定において、申立外ゼンセン同盟全ニッショー労働組合連合会ニプロ医工労働組合(以下「申立外ニプロ医工労組」という。)所属の従業員と差別して低い査定を行ったのは、労働組合法七条一号および三号の不当労働行為に該当する。」と認定したこと、並びに<3>被申立人が本件命令を不服として、申立人を被告とする本件命令の取消しの訴えを当裁判所に提起したことが明らかである。

而して、一件記録並びに本件疎明資料に照らすと、右取消しの訴えの判決において、本件命令における事実の認定および救済方法の判断が維持される蓋然性につき疑義があるとまでは言えないから、本件命令は一応有効適法であると認めるのが相当である(これにつき被申立人は、「本件命令は、参加人ニプロ支部に所属する従業員と、これに所属しない従業員(訴外ニプロ医工労組所属の者と、いずれの組合にも所属しない者とがある。以下「非支部組合員」という。)の労働の質量に差がないと判断した点に誤りがある。」との意見を提出するが、一件記録並びに本件疎明資料に照らしても、右二つの集団の従業員の労働の質量に、有意的な差があることは明らかとは言えない。)。

二  緊急命令の必要性

そこで本件命令の履行を求める必要性があるかを検討するに、一件記録及び本件疎明記録によれば、以下の事実が一応認められる。

1  申立人は被申立人に対して、群地労委昭和五六年(不)第二号事件、同昭和五七年(不)第一号事件、同昭和五八年第一号事件(以下、それぞれを「昭和○○年事件」と略称する。)において、いずれも参加人ニプロ支部の組織運営への支配介入や支部組合員に対する賃金等の差別を禁止する救済命令を発した。

2  ところが被申立人は、いずれの救済命令をも不服として、中央労働委員会(以下「中労委」という。)にそれぞれの再審査の申立てをし、中労委が初審命令を概ね維持する再審査命令を発すると、更に東京地方裁判所に各再審査命令の取消訴訟を提起している(昭和五六年事件及び昭和五七年事件。なお、昭和五八年事件は中労委に係属中)。そして、昭和五六年事件についての裁判所の判断は、第一、二審ともに被申立人の請求を棄却しており、昭和五七年事件は第一審に係属中であるが、中労委は同事件につき緊急命令を申し立てている。

3  本件救済命令及び右昭和五六年ないし同五八年事件の救済命令(合計五)は、すべて被申立人によって履行されておらず、更に同五九年、同六〇年と相次いで参加人ニプロ支部から賃金差別につき救済命令の申立てがなされている。そして、昭和五五年ころは五八三名であった支部組合員は、同五六年は二〇六名、同六一年ころには四七名に激減した。

4  ところで、被申立人会社における昭和五八年度の所定内賃金平均額は一四万一五一五円であり、同六一年度のそれは一六万〇七二〇円であるところ、本件命令において認定された非支部組合員と支部組合員との格差は、昭和五八年度昇給額において三四九円、同年夏季一時金において〇・〇九二箇月、同年年末一時金において〇・一八六箇月である。

以上の事実に基づき検討するに、不当労働行為救済の制度趣旨は、労働者個人の被害救済の側面に留まらず、組合活動一般に対する侵害の除去、是正の側面をも併せ持つことは言うまでもない。ところで前記所定内賃金の額から考えると、支部組合員の生活が本件命令の確定を待ちえない程に逼迫しているとはとうてい思われないので、不当労働行為救済の制度趣旨のうち前者の側面のみからすれば、被申立人に対し本件命令に従うべきことを仮に命じる必要性まではないとも言える。しかしながら、本件命令に至るまでの長期間にわたる労使紛争の経過に照らすと、本件命令が直ちに履行されなければ、支部組合員が更に減少する等、参加人ニプロ支部の組合活動の支障がますます増大することは十分に予想される。それゆえ不当労働行為救済の制度趣旨のうち後者の側面をも併せて考えるならば、参加人ニプロ支部と被申立人との間に適正な労使関係を回復するために、被申立人に対して本件命令に直ちに従うべきことを命じる必要性が一応存すると言うべきである(なお被申立人において、本件命令に直ちに従うべきことを命じられると、回復しがたい損害を被るとの事情は、疎明されていない。)。

三  結論

以上によれば、本件命令の適法性、および緊急命令の必要性は一応肯認されると言うべきであるから(なお申立人は、本件命令のうち主文第七、第八項については緊急命令の申立をしていないので、この点についての判断はしない。)、労働組合法二七条八項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 春日民雄 裁判官 高橋祥子 裁判官 小木曽良忠)

別紙 主文

一 被申立人は、申立人支部組合の組合員に対し、被申立人館林工場のゼンセン同盟全ニッショー労働組合連合会ニプロ医工労働組合の組合員及び非組合員(管理職を除く。)と、賃金、一時金を差別することによって、申立人ら組合の組織運営に支配介入してはならない。

二 被申立人は、申立人支部組合の組合員に係る昭和五八年度賃金引上げのうち、職能給の査定分の考課査定の平均が、被申立人館林工場のゼンセン同盟全ニッショー労働組合連合会ニプロ医工労働組合の組合員及び非組合員(管理職を除く。)の平均と等しくなるよう再査定を行い、支部組合員の職能給額を是正しなければならない。

三 被申立人は、申立人支部組合の組合員に対して、前項に命ずる是正をなしたうえ、支部組合員の昭和五八年夏季一時金及び同年年末一時金の平均支給月数が、被申立人館林工場のゼンセン同盟全ニッショー労働組合連合会ニプロ医工労働組合の組合員及び非組合員(管理職を除く。)の平均と等しくなるよう再査定を行い、支部組合員の各一時金の支給額を是正しなければならない。

四 被申立人は、前二項に命ずる再査定を行うに際しては、申立人支部組合の組合員の従来の査定を不利に変更してはならない。

五 被申立人は、前三項に命ずる是正の結果、申立人支部組合の組合員が得るべき賃金、一時金の額と既に支払われた額との差額を同人らに速やかに支払わなければならない。また、是正結果及び差額内容の明細を申立人支部組合に通知しなければならない。

六 前項に命ずる救済の対象者は、本件審問終結時に申立人支部組合の組合員であった者に限る。

七 被申立人は、命令書交付の日から七日以内に、縦一メートル、横一・五メートルの白色木板に左記のとおり楷書で墨書し、被申立人館林工場の食堂内の従業員の見易い場所に一〇日間掲示しなければならない。

会社が、貴支部組合員を、昭和五八年度の職能給の昇給、夏季一時金及び年末一時金の考課査定において、会社館林工場のゼンセン同盟全ニッショー労働組合連合会ニプロ医工労働組合の組合員及び非組合員(管理職を除く。)と差別したことは、不当労働行為であると群馬県地方労働委員会により認定されました。よって、貴支部組合員の考課査定について速やかに是正措置を講ずるとともに、今後かかる差別的行為はくり返さないよう十分留意いたします。

昭和 年 月 日

合化労連化学一般関東地方本部

執行委員長 林恭護殿

合化労連化学一般関東地方本部

ニッショー・ニプロ支部

執行委員長 西谷義信殿 ニプロ医工株式会社

代表取締役 佐野實

(注 年月日は文書掲示の初日とする。)

八 被申立人は、第二項から前項までに命ずるところを履行したときは、その都度遅滞なく当委員会に文書で報告しなければならない。

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